2024年日本語の誤用及び第二言語習得研究国際シンポジウムのご報告
2024年8月4日(日)~8月5日(月)に福建師範大学にて開催されました『2024年日本語の誤用及び第二言語習得研究国際シンポジウム』が、成功裏に終わりましたことをご報告申し上げます。
今回の大会は、福建師範大学外国語学院、日本語誤用と日本語教育学会が主催となり、外語教学与研究出版社、浙江工商大学出版社、『日語学習与研究』の協賛の下、開催されました。2日間にわたり、3つの会場において、基調講演、学会賞の授賞式、研究発表会、マスターフォーラム・ドクターフォーラム、優秀発表賞の授賞式が繰り広げられるという非常に充実した内容となりました。
今年度の学会賞は大会の開会式にて授賞式が執り行われました。一等賞は関西学院大学の肥田栞奈先生、二等賞は拓殖大学北海道短期大学の藤田守先生が受賞なさいました。
大会の初日には神戸大学の石川慎一郎教授による「第二言語習得研究と学習者コーパス:習得のプロセスをどう観察するか?」、東京大学の浅野倫子准教授による「迅速な文章文脈処理メカニズムの認知心理学的研究」、北京外国語大学の費暁東准教授による「日本語教育における良い学びと堅実な研究に繋がる評価」、福建師範大学の呉慧萍准教授による「应用语言学研究中常用的量化分析方法」の4つの講演がありました。講演の内容は日本語教育、第二言語習得研究、誤用研究、心理学、統計学と多岐にわたり、若手教員をはじめ、参加者にとって、幅広く学べる貴重な機会となりました。ご講演くださった先生方に心より御礼申し上げます。
一般発表では、動詞の誤用を扱った研究を中心に、叢書の執筆者による発表が多数ありました。誤用の叢書を刊行することは本学会の目的の一つでもあり、シンポジウムは、発表を通して他の編集者と意見交換するという貴重な役割を担っています。今回も大変有意義な場となりました。叢書のテーマ以外にも、日本語の誤用及び日本語教育に関する内容の発表も数多くありました。今回の大会では、引き続きマスターフォーラムとドクターフォーラムが設置されました。中国と日本からの大学院生達が積極的に参加し、優れた研究発表が多く、会場の参加者からも高く評価されました。ご発表いただいた皆様、ありがとうございました。
閉会式と会員総会では、まず、マスターフォーラムとドクターフォーラム優秀発表賞の授賞式が行われました。マスターフォーラム優秀発表賞は福建師範大学の黄幃さんと林琳さんに授与されました。一方、ドクターフォーラム優秀発表賞は関西学院大学の奥中淳未さんと徐筱琦さんに授与されました。
次に、事務局から学会の新しい組織構成に関する紹介に加え、研究誌《日语偏误与日语教学研究》第9輯の刊行及び第10輯の投稿募集、《日语偏误与日语教学研究丛书》の進捗状況、『YUKタグ付き中国語母語話者日本語学習者作文コーパス』(Ver.14)の構築状況、会員数、経理ならびに監査から報告がありました。その後、大会運営委員会委員長の金稀玉先生、学会賞選考委員会委員長の杉村泰先生より、それぞれ大会運営委員会、学会賞選考委員会の報告がありました。また、日本語誤用と日本語教育学会副会長の于康先生が大会の総括と閉会の挨拶をしました。
今回のシンポジウムは、福建師範大学の林璋先生、陳燕青先生、蔡妍先生、王丹凝先生、王文協主任、劉正先生、劉凌霞先生をはじめとした主催校の先生方の献身的なご尽力で、盛会裏に終えることができました。ありとあらゆるところまでご配慮くださり、本当にありがとうございました。
2025年日本語の誤用及び第二言語習得研究国際シンポジウムは上海財経大学で開催する予定です。詳細が決まり次第、ご報告申し上げます。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
日本語誤用と日本語教育学会事務局
学会誌『日語偏誤与日語教学研究/日本語誤用と日本語教育研究』第9輯刊行(2024年)
【专题基于数据分析的日语习得研究】
中国日语学习者助动词「ものだ」的习得研究
中国日语学习者副词文体特征习得状况研究…………毛文伟/ 020
不同任务类型下中国日语学习者与本族语者衔接特征的对比研究
【研究论文】
「は」と「が」のパラグラフ的構文制約に関する一考察
心理動詞と共起する「NPのこと」の使用条件に関する一考察
日本語母語話者における会話中の「もう+動詞」の使用状況……………加藤靖代/ 111
日本語の多義的な数量詞構文における属性と内部構成要素の数量の
中国語母語話者の作文における「実は」の誤用について
形式名詞「の」「こと」の意味機能に関する一考察
中国語母語話者日本語学習者による「する」の不使用に関する一考察
【论坛】
应该使用「会う」,还是「出会う」? ………………………于康/ 197
应不应该使用「ある( NP )」? ……………………………杨晓敏/ 202
应该使用「開ける」,还是「開く」? ………………………杉村泰/ 207
应该使用「受ける」,还是「受け取る」? …………………姚媛/ 212
应该使用「できる」,还是「出る」「出てくる」? …………刘凤荣/ 217
应该使用「思い込む」,还是「思う」? ……………………鲁燕青/ 224
应该使用「受ける」,还是「受け入れる」? ………………董文娟/ 228
应该使用「ある」,还是「なる」? …………………………李坤/ 234
【附录】
日语偏误与日语教学学会/日本語誤用と日本語教育学会会則
日语偏误与日语教学学会/日本語誤用と日本語教育学会組織構成
入会案内
投稿規程
査読規定
编后记
特集
中国日语学习者助动词「ものだ」的习得研究
蔡妍(福建师范大学)
周佳睿(法政大学)
本研究基于理解和产出2个层面,考察中国日语学习者「ものだ」的习得情况。本研究采用词义解释和词义辨析测试学习者对「ものだ」各语义的理解,结果发现理解难易度为本质>义务>感慨>回想>愿望;采用语篇补全、单项选择题和翻译题测试学习者对「ものだ」各语义的产出,发现产出难易度为回想>义务>感慨>愿望>本质。学习者对语义的理解与范畴化认知过程、该语义于语境中的凸显程度有关;而语义的产出则更多地受到教学干预(学习顺序、接触频次等)的影响。学习者的产出优于理解,与国内日语课堂的教学、考核方式及教材的编写侧重产出能力的培养有关。
中国日语学习者副词文体特征习得状况研究
肥田栞奈(関西学院大学)
本稿では広義の「構文」的な視点,つまり「パラグラフ的構文」の視点を導入することで,従来の研究で明らかにされてこなかった「文章」単位での「は」と「が」の構文制約について考察した。具体的には「YUKタグ付き中国語母語話者日本語学習者作文コーパス」(Ver.10)の「は」と「が」の誤用が含まれている文を抽出し,そのうち「は」から「が」,あるいは「が」から「は」の誤用が含まれているパラグラフを中心に,パラグラフ的構文制約の有無を検証し,規則性を見出した。その結果,次の点が明らかになった。①「は」の文もしくは「が」の文が続くと,「パラグラフ的構文」として機能する。②パラグラフ的構文の内部で一時的に「は」と「が」の切り替えが生じる場合,「有標化」の機能を有する。③「は」と「が」がパラグラフ的構文単位で切り替わる場合,「話題転換」の機能を有する。④パラグラフ的構文制約における「は」は,基本的に「提題助詞」が対象となる。
徐筱琦(関西学院大学大学院)
本研究は,「気にする」「気になる」「信じる」といった心理動詞と共起する「NPのこと」を考察対象として,その使用条件を提示することを目的とする。その結果,「のこと」の出現は,必ずしも前接名詞の性質に関わっているとは言い切れない。「のこと」は「コト性」を持たない名詞に伴いやすい傾向があるが,「コト性」を持つ名詞との共起も見られる。「のこと」の有無は,話者が名詞句をどのように捉えるかによって支配される可能性が高い。「のこと」を使用しない場合は名詞句そのもの,あるいは事柄自体の存在に焦点を当てるという話者の捉え方を表すのに対し,「のこと」を使用する場合は,名詞句そのものの存在,あるいは事柄自体の生起を前提に,名詞句にまつわる事柄に焦点を当てるという話者の捉え方を表すと考えられる。
本研究では,『BTSJ日本語自然会話コーパス(トランスクリプト·音声)2020年版』を分析することで,日本語母語話者における「もう+動詞」を含む文の使用状況と動作の終了の伝達以外に付加される話し手(質間者),聞き手(応答者)の事態達成に対する想定について明らかにした。調査の結果,日本語母語話者は,「もう提出した」という動詞単独の形でほとんど使用せず,「もう~てしまった」や,動詞に助詞などの後続表現を付帯して使用することが明らかになった。そして,平叙文で,状態の変化や完了の事実のみを伝える場合,動詞のタ形が多く用いられ,内容は直接聞き手と無関係であることが示唆された。また,事態達成に対する話し手(質間者),聞き手(応答者)の想定については,平叙文では4つ,疑間文では3つの使用法が見られた。
日本語の多義的な数量詞構文における属性と内部構成要素の数量の生起条件に関する一考察
—名詞修飾型数量詞構文を対象に—
奥中淳未(関西学院大学大学院)
名詞修飾型の数量詞の中で属性を表すとされている数量詞のうち「全体数の補完が必要な属性Q」のパターンを中心に,その数量詞に属性以外の解釈として内部構成要素の数量の解釈が存在する可能性を示したうえで,内部構成要素の数量の解釈がされる文と属性の解釈がされる文を比較しながら,その条件について考察を行った。その結果,コンテクストの中で高さや距離,分量などを測る尺度として数量詞が示されている場合や,数量詞の指し示す名詞の対象が全体に対する一部分の数量について述べている場合には,内部構成要素の数量に焦点が当てられることが確認され,そうではない無標の場合であれば,そのまま属性の意味として解釈されるという条件が確認できることを指摘した。
小池直子(北京理工大学)
本稿は,これまで学習者・教員に意識されることの少なかった日本語作文における副詞「実は」の指導の必要性とその方法を示すものである。従来「実は」の用法については「秘密の開陳」を重視する傾向があったが,母語話者の用例を考察した結果,「実は」の中心的用法は「意外性の惹起」にあることがわかった。初中級学習者の場合,自身に直接関係のある事柄を記す際に,単なる前置きとして「実は」を使っていることが誤用につながるケースが多い。教員はこの点を指摘するとともに,学習者に「意外性の惹起」の重要性を理解させる必要がある。客観的な文章を書く機会の多い上級学習者に対しては,自身の提供する情報が読み手にとって意外なことに相当するのかを考え,慎重に「実は」を使うよう注意喚起すべきである。
張夢華(関西学院大学大学院)
本稿は,「X(の→こと)/(こと→の)は+Yことだ」という誤用例を中心に,日本語母語話者の実例とも照らし合わせながら,代名詞的な機能と名詞化する機能における「の」と「こと」の意味的な違いを考察した。そのうえで学習者の誤用原因も分析した。その結果,以下の3点が明らかとなった。1点目は,代名詞的な機能として「こと」の意味を表す「の」が指示するものは,文脈や場面から判断でき,実質的な意味を持つ語に置き換えられる。そして,「こと」は「の」のように前後文脈との強いつながりも持っておらず,一般的な概念として客観的な事実を述べる特性を持ち,実質的な意味を持つ語に置き換えることはできないということである。2点目は,前のフレーズを名詞の形にするとき,「の」自身は意味を持っておらず,話し手の意見も介入しておらず,名詞化のマーカーとして働くということである。「こと」は前のフレーズを名詞化するうえで,概念化のプロセスによって話し手の意見も含まれている。3点目は,学習者は「の」「こと」の特性を把握しておらず,文体のことも考えていないことで間違えているということである。
中国語母語話者日本語学習者による「する」の不使用に関する一考察
謝蓉(関西学院大学大学院/蘇州城市学院)
「Xする」は日本語においてよく見られる表現である。しかし,中国語を母語とする日本語学習者が産出する文では,「する」の部分が欠如し,「X」のみで表される誤用現象が多く確認される。そこで,本稿では,中国語母語話者日本語学習者の作文コーパスの用例を対象に「Xする」における「する」の不使用について分析し,誤用の要因について考察を行った。その結果,日本語母語話者は「Xする」全体が動詞として捉えられるのに対し,母語の負の転移により,学習者は「X」のみが動詞として認識されるという,「Xする」に対する捉え方の相違があることが明らかになった。この捉え方の相違により,学習者が「Xする」の「X」を動詞として取り違え,「する」の不使用が生じたと考えられる。さらに,「する」の不使用の要因には,学習者の言語処理のストラテジーの使用が複合的に関与している可能性が示唆された。
〒662-8501
西宮市上ヶ原一番町1-155
関西学院大学日本語教育センター
肥田栞奈研究室内
事務局長:朴麗華(北京第二外国語学院)
事務局長代行:張超(上海海事大学)
事務局次長:任霞(中南林業大学)、李文鑫(天津師範大学)、何秋林(浙江師範大学)
TEL 0798-54-7021
メール goyouken[at]163.com
※[at]は@に置き換えてください。
会 長:徐微潔(浙江師範大学)
会長代行:毋育新(西安外国語大学)
副会長:杉村泰(名古屋大学)、毛文偉(上海外国語大学)、徐愛紅(中山大学)、于康(関西学院大学)
著者:于康・田中良・高山弘子
書名:《方法工具与日語教育研究叢書 加注標簽軟件与日語研究》
出版社:浙江工商大学出版社 (2014)